おひとり様の老後の備え−まとめ−

 これまで、生前の財産管理から、亡くなった後の遺産承継についてのお話しをさせていただきました。これらを踏まえて、それをまとめたものが次の図です。
とくに,今後,急激に増えるであろう「おひとり様の老後の備え・死後の備え」として見ていただければ分かりやすいと思います。

 それでは,簡単に説明します。まず,老後の備えとして,元気なうちは見守り契約ホームロイヤー契約を結んでおきます。これは,1か月に1度〜2度くらい電話をしたり,自宅や老人ホーム等の施設に訪問して,元気にしているか,生活に不便は感じていないか,認知症の程度はどうかなどを,文字通り高齢者の生活を見守る契約です。悪徳業者との契約などでトラブルに巻き込まれないためとか,だまされて悪徳業者と契約してしまって困っているなどの法的なアドバイスが必要なときは,弁護士や司法書士等の法律の専門家とホームロイヤー契約を結んでおくと安心です。
 次に,まだ認知症ではいないが,病気で長期入院をすることになった場合や年とともに身体が思うように動かなくなり不便を感じている場合などで,自宅や生活費の支払いなどの預貯金の管理,身の回りの世話などの手配などを頼みたい場合には,任意代理契約を結びます。
この契約を財産管理等の委任契約ともいいます。また,この契約とあわせて,認知症になってしまった場合に備えて,任意後見契約を結ぶことが多いと思います。
そうしておけば万が一に,認知症になってしまった場合でも,家庭裁判所の選んだ任意後見監督人の監督の下で,自分の選んだ任意後見人に支えられ,安心してその後の生活を送ることができます。
 次の尊厳死宣言ですが,これは延命治療を拒否して、自然に死を迎えたいときに,その希望を文書にして残しておくことです。
尊厳死とは、死に際ぐらいは尊厳をもって死んでいきたいとする本人の意思を尊重し、死期を早めるわけではないが、いたずらに高度の人口延命治療による機械的な寿命の延長もせずに、苦痛を緩和しながら自然死を促すことをいいます。
尊厳死が認められるためには、患者が、複数の医療機関・医師等の目から見ても裁量の余地がないほどに治療不可能な病気に侵され、回復の見込みがなく、死が避けられないということが確実である末期の状態にあることが必要になります。通常は脳死状態にあることをいいます。しかし、本人が尊厳死を希望していても、何の準備もしていなければ、実際にそのような状態になったときに、それをかなえることは難しいのが現状です。そこで、尊厳死を希望するのであれば最低限、その意思を客観的な形で残す必要があります。そのために尊厳死宣言書が作成されることがあります。また、この尊厳死宣言書は、書き方が法律で決まっているわけではありませんが、遺言と同様に、本人の意思を明確にして後日の紛争を避けるため、公正証書にすることが望ましいといえます。
尊厳死宣言書の具体的な内容としては、@尊厳死を希望しているという意思を表明すること、A尊厳死を希望する理由、B家族の同意を得ていること、C家族や医療関係者が法的責任を問われないように配慮すること、Dこの宣言書は自らが心身ともに健全な状態で作成したものであり、自らが破棄・撤回しない限り効力があること、になります。ただし、この宣言書が存在しても、尊厳死についての法律がないため、確実に実現されるという保証はありませんが、実現の可能性が高まることは間違いありません。
 次に、信託契約ですが、これは、破産や死亡、認知症など自分にさまざまな事情が生じたとしても、それらに影響されることなく財産を守り、自分の意思をそのまま財産管理や遺産承継に反映させたいと思うときにする契約です。したがって、この契約をしておけば、遺言と異なり亡くなった後の財産管理が可能となります。
 次に、ライフプランですが、これは、任意後見契約等に付随して、これらの契約書には書きにくい本人の希望等を文書にしたものです。エンデイングノートと言われるものです。
例えば、介護について、在宅がいいか、老人ホーム等の施設がいいか、老人ホーム等の施設に入所する場合、自宅はどうするか、医療について、病院の選び方や治療方法等の希望、手術を受ける際の同意者を誰にするか、葬儀・埋葬について、葬儀・埋葬の方法等の希望、お墓はどうするか、また、入院した時や亡くなった時に連絡して欲しい人や逆に連絡して欲しくない人,また,亡くなった後の遺品の整理方法などについて文書で残しておくことです。
 次に、リバースモーゲージですが、これは、自宅を担保にして老後の生活資金の融資を年金方式で受け取り、契約や遺言で、本人が亡くなった時に、その担保に入っている自宅を売却して返済をするというものです。いわゆる逆住宅ローンといわれるもので、自宅はあるが、生活費に困っている高齢者のためにお金を貸しましょうという制度です。
自治体では、武蔵野市、東京都世田谷区等で実施しています。また、各都道府県の社会福祉協議会でも扱っています。

 次に,死後の備えですが、遺言を中心とした備えになります。
 遺言信託とは、老後の備えでお話しした信託契約を遺言で行うものです。よく耳にする、信託銀行等で扱っている「遺言信託」とは異なります。
この信託銀行等で扱っている「遺言信託」は信託という名称を使用していますが、法的には信託ではありません。また、その内容は、単に遺言の作成のお手伝いをして、その作成した遺言書を保管し、遺言した人が亡くなった時にその遺言の執行をするものです。
最近この遺言信託が増えてきているようですが,費用がかなりかかりますので,ある程度の財産のある人しか利用していないようです。
 死後の事務委任契約は,特に身寄りのないおひとり様について,老後の備えの任意代理契約や任意後見契約とあわせて,亡くなった後のことを頼みたいときに結ぶ契約です。
 この契約の主な内容は,亡くなった後に必要となる各種届出,公共料金等の支払い,老人ホーム等の施設や病院への支払い,遺品の整理、葬儀や永代供養などになります。
 次に、献体の希望ですが、これは、亡くなった後、自分の遺体を医学の発展のために提供したいときに、その意思を文書で残すことです。献体とは,医学・歯学の大学における解剖学の教育・研究に役立たせるため、自分の遺体を無条件・無報酬で提供することをいいます。



 最後に、松下幸之助さんの言葉を引用します。
 「死を恐れるのは人間の本能である。だが、死を恐れるよりも、死の準備のないことを恐れた方がいい。人はいつも死に直面している。それだけに生は尊い。」
 備えあれば憂いなしといいますが,このように老後や死後の備えとして準備をすることで、安堵感につながり、そのことが、これからの人間関係や趣味、仕事など、生きることに今まで以上に前向きになれるのではないでしょうか。
次回は,財産管理についての私の体験談をお話させていただきます。