財産管理についての私の体験談

 今回は、財産管理についての私の体験談をお話しさせていただきます。
 千葉県内でおひとりで生活していた83歳なるA子さんのお話です。一昨年、A子さんは脳梗塞で倒れてしまい、その影響でほとんど意識がなく、入院先の病院でもこれ以上処置の方法がないということで、主治医から自宅に戻るか介護施設に移るように言われていました。
A子さんには、ご主人がいましたが先立たれ、子供もいません。また近所づきあいもほとんどなく、唯一の話し相手は週に何回か通ってくれるホームヘルパーさんだけでした。また、親戚と言えば、疎遠でまったくと言っていいほどつき合いのない高齢の兄弟姉妹だけでした。
そこで、入院していた病院の支払いや移り先の介護施設との契約などのために、その兄弟姉妹の長男でありA子さんのお兄さんであるBさんが、A子さんの成年後見人選任のための、後見開始の審判の申立を家庭裁判所にすることになりました。
そこで、Bさんも高齢であり、A子さんの財産管理や身上監護といった後見事務を行うのは難しいだろうということで、私が成年後見人の候補者となり、家庭裁判所から成年後見人に選ばれ、A子さんの後見事務を行うことになりました。

当時、A子さんの預貯金の通帳、印鑑等は、社会福祉協議会で緊急事務管理として保管していましたので、私がそれらを引き取り保管することになりました。
その後、A子さんは、何度か脳梗塞を繰り返し、話しかけてもほとんど反応がなく、当初よりさらに悪化し、自分では何もできない状態になってしまいました。また食事については、自分で噛むことができず喉に詰まらせてしまうことから、胃に穴を開けてそこからとることになりました。
このことは、健康状態に合った栄養がうまくとれない状況を続けることになり、そうしたことから、体調を崩し、病院と介護施設を行ったり来たりの生活をしていましたが、昨年の暮れに残念ながらお亡くなりになりました。そして、A子さんの葬儀は火葬をしてお墓に納骨するだけのとても簡素なものでした。費用にして25万円程度でした。

 亡くなった当時のA子さんの遺産としては、生活で使用していた家財道具などの身の回りの品物の他に、ご主人名義の自宅と約6、000万円の預貯金がありました。私の成年後見人としての後見事務は、A子さんの死亡と同時に終了していましたが、私が後見事務としてA子さんの財産管理をしていたこともあり、相続人であるA子さんの兄弟姉妹から頼まれて、その遺産整理手続きをすることになりました。

 そこで、私は、A子さんの預貯金を解約し金融機関から払い戻しを受け、さらに自宅を売却してその売却代金を受け取りました。自宅内にあったA子さんの生活で使用していた家財道具などの身の回りの品物は、A子さんの兄弟姉妹に形見の品として受け取ってもらいたかったのですが、すべて処分して欲しいとのことでした。
A子さんの遺産は約7,000万円でした。A子さんには遺言はなかったので、結局、その遺産は法定相続分にしたがって、A子さんの兄弟姉妹に相続されることになりました。相続された遺産は、現金で、1人あたり1000万円近くになりました。

 ここで思うことは、A子さんは何のために、自宅を守り、6000万円もの大金を貯めてきたのかということです。
兄弟姉妹に残すためにそうしてきたのでしょうか。そうではなくて、きっと、おひとりで不安を抱えながら、自分の老後の生活やその資金とするためにそうしてきたのではないでしょうか。そうした老後の不安から、守ってきた自宅や生活を切り詰めて使わずに貯めてきたお金を、自分のために安心して使えるようなしくみがあれば、もしかしたら、A子さんは思い悩むこともなく、そのストレスも軽減され、脳梗塞にならずにすんだのではなかったのではないでしょうか。
 そうした自宅やお金を自分のために安心して使えるしくみが、まさにこれまでにお話しさせていただきました、遺言や成年後見、信託等の遺産承継や財産管理のしくみなのです。これらのしくみを老後や死後の備えとして上手に活用して、自分の思いを実現させていきたいものです。